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「<店>を題材にしたミステリをまとめた」怪しい店 有栖川有栖著

2024年2月24日

個性豊かな探偵のキャラクターに惹かれる

「趣味は何ですか?」と聞かれれば、「読書です」と答えながらも「面白くない趣味だな、他に何かないのか?」と内心自分につっこんでしまう私だが、やはり読書が好きである。

今でこそ時間が取れずに読書量が減っているものの、学生時代は「本を読んでいる背中しか見てない」と母に言われるほど、本の国の住人だった。

一番よく読んだのはミステリー。ミステリーの何が好きかというと、事件が起こり、その謎を解いていき、犯人を追い詰めるという分かりやすいベースがありつつ、好奇心がかき立てられること。

そして、個性豊かな探偵のキャラクター。ホームズにワトソンがいたように、名コンビのパートナーがいることも少なくない。

今回選んだ有栖川有栖氏著の「怪しい店」の主人公もまさに好きなタイプ。犯罪社会学者の火村英生が好きで、このシリーズの発売をいつも楽しみにしていた。

それなのにいつからだろうか、生活のベースが海外になってからか、子育てが始まってからか、私の中で火村英生の存在がすっかり影をひそめてしまってしまっていた。

 

新本格とは?

冒頭に戻るが、続いて「どんな本が好きですか?」と聞かれて、とっさに出たのが「ミステリー」という回答。今はノンジャンルに雑読し、ビジネス書を読むことが多いが、まぁそうだ。

さらに「誰が好きですか?」と聞かれると、「東野圭吾とか、湊かなえとか…」と割と分かりやすい著者名をまず最初に出してみる。

だが、相手が「森博嗣は?綾辻行人は?」とミステリーファンだったので、「新本格派はかなりはまってました」と言いながら思い出した。

新本格とは、1987年の綾辻行人のデビュー以降ブームとなった本格ミステリ作品および作家のこと。本書の有栖川有栖も中核をなす作家の一人だ。

新本格の何にそれほどはまったかと聞かれたら、江戸川乱歩など大御所のやり方を踏襲してロジカルであり、しかも登場人物が親近感が感じられ魅力的だったからだと思う。

主人公が「探偵」より「大学教授」とか「建築家」の方が、現実的な想像ができ、より興味を惹かれるのは私だけではないだろう。

大学教授の火村英生と作家のアリスのコンビもこのストライクゾーン真っ只中。ひたすらクールな火村英生とおちゃめな関西人アリスの最強コンビが難題を解決していく。

 

店をテーマにした、いろどりどりの短編集

さて、この「怪しい店」という本に出会ったきっかけは、体調がいまいちな週末に「今日は休もう」と決めて、アマゾンUnlimitedで読むものを探していたら、火村英生シリーズをたまたま見つけたことである。

本書は、5本の短編から成り立っている。頭から順番に読み始めてまもなく、読み慣れたテイストにすぐに引き込まれた。

1本目は古物商の主人の殺人事件。私にとって古物商はあまりなじみのあるお店ではないが、安定感のある展開に「やっぱりアリスはいいな」とわくわくしながら読み進めた。

2本目の舞台は古本屋だが、意表を突く展開と結末に「ほほう」と唸らされた。

3本目は芸能事務所が舞台。これまでの2本とテイストが違って、犯人目線で描かれ、サスペンス色が強い。

4本目は、叙情を掻き立てる港町の理髪店が舞台。これは結末がなくて、火村英生の意外な素顔が垣間見えて、この中で一番好きだった。

5本目はタイトルが本書のタイトルと同じ「怪しい店」で、トリの登場といったところ。「耳屋」という、人の話を聞くという商売があり、その女主人が殺される話。

店がテーマのいろどりどりの短編集に興味が湧いた人がいたら、ぜひおすすめしたい一冊。主人公の火村英生とアリスコンビの関西のノリが感じられる冴えた推理にハマってしまうかもしれない。

最後になるが、途中で火村英生が35歳という記述があった。学生時代は憧れのお兄さん的だった彼が、今ではずいぶん年下になってしまった。

こちらから購入できます。(アマゾンアソシエイトに参加しています)

Written by 藤村ローズ(オランダ)

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