その機会は不意に訪れた。夫と火鍋を食べながら何気なく見ていたFacebookのタイムラインに表示されたのは、
【マカオタワー 今だけ!バンジージャンプ:888MOP】
入国制限で観光客のいないマカオタワーが、マカオ市民に向けて特別価格でアクティビティを提供する広告だった。
なに!?普段6万円のバンジージャンプが1万2千円!!これはめったにない、非日常体験のチャンスでは・・!?
好奇心アンテナがビビッと立ち、その場で2名分の予約電話をかけた。
「え、僕もやるの?」と困惑気味の夫を「こんなチャンス一生に何度あるかわからないよ!」などと言いくるめ、一緒に参加する同意を得た。
当たり前じゃないか。。一人だと怖いだろう!?
マカオタワーのバンジージャンプは世界一の高さを誇る。ギネス記録にも掲載されているその高さは、233メートル!61階からのジャンプである。
そりゃあ怖い。通常価格の6万円も怖い。ダブルで怖い。それでも通常営業時には、挑戦する強者たちが毎日100人程訪れるというからすごい。
今回大特価のおかげで、私達も強者への仲間入りをするのである。「コロナ禍転じて空を飛ぶ」だ。
私は若干の緊張とそれ以上のわくわく感を胸に、バンジージャンプまでの日々を過ごした。
そして迎えた当日。私達は予約時間の1時間前にマカオタワーに到着した。
心の余裕は大事だ。高さに慣れたら怖さは徐々に無くなるだろう。バンジージャンプを十二分に楽しめるに違いない。
到着した我々はまず、マカオタワー展望台地下にあるレセプションへ向かい、予約のレシートと引き換えにチケットを発行してもらった。
そして高速エレベーターで61階へ一気に上る。エレベーターを出ると、一面には薄曇りの空が、眼下にはマカオの街並みが広がっている。
Registrationと書かれた受付で名前とメールアドレスを記入し、持病がない声明、規則同意書にサインをする。
せっかくの機会なので、ビデオと写真オプション298MOP(約4500円)を追加する。一人あたりの合計金額は1,186MOP(約17,000円)になったが、それでも普段の70%オフだ!
バンジージャンプする人用の赤いTシャツを受け取ったら、更衣室で着替え、荷物はロッカーへ。
時間に余裕のある私達は、58階の展望台へ移動する。展望台の床は一部スケルトンになっていて高さを実感することが出来るのだ。
透明な床を覗き込むと、行き来する車がミニチュアのおもちゃに見える。バンジージャンプの着陸点であるエアーマットは、座布団のよう。
「おおっ・・・高い・・・」
私は高所恐怖症ではないけれど、少し足がざわざわする感じを覚える。数分間、その場に立ちながら深呼吸を繰り返して、足のざわめきを落ち着けていった。
一方、夫は「僕は別に怖くないから」と呼吸法に参加することなく、チャットで友人達に今からバンジーするんだ自慢をしていた。ミーハーな奴。
呼吸法を終えたら、時間が来るまで展望台をゆっくり周った。マカオとお隣中国ジュハイ市が遠くまでよく見える。ジュハイ市の開発の著しさに驚きの声をあげつつ、高さには十分慣れたぞと確信して61階へ戻った。
(次ページへつづく)
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