アーティーチョークとアガパンサスで飾られたアーチ
新北欧料理、ニュー・ノルディック・キュイジーヌという言葉をご存知でしょうか。
地元北欧の食材に注目するだけでなく、生産者をサポートし生態系を守る、伝統を大切にしながらも新しい視点を取り入れて美味しさと健康を結びつける。
それまでのサーモンやミートボールという北欧料理のイメージを変えたのが、この概念を打ち出したレネ・レゼピ氏率いるレストラン、ノーマ(noma) です。
nomaはデンマーク語の『nordisk (北欧の)』と『mad (食)』を合わせた造語。
その取り組みにより『世界のベストレストラン50』誌で4度も世界一を獲得、ミシュランでも二つ星を維持し、「世界一予約が難しいレストラン」とも言われるノーマが位置するのは、実はここデンマークのコペンハーゲン。
食と健康を仕事にする私としては行かずにはいられません。
今回はノーマレポートをお届けします。
花のブーケ。実はカップの底にビーツのスープが
2021年6月後半に初めて訪れたノーマ。タクシーが到着したのはまるで菜園のような場所でした。
全てがノーマの敷地で、提供される野菜やハーブが植えられています。
夏の香りを満喫しながら畑を進むと、ズッキーニで彩られた、アーティーチョークとアガパンサスのアーチに辿り着きます。
大人は屈まないと通れないのですが、この美しい出迎えには通る人が全員笑顔になっていました。
小さな木の扉を潜ると数十名のスタッフさんが温かく出迎えてくれ、席に案内されます。
最初に運ばれてきたのは、ガーデンから摘んできたばかりの花のブーケ。
実はカップの底にビーツのスープが入っているのですが、あまりの美しさに周囲からも歓声が上がります。一品目から驚きが詰め込まれたノーマです。
その後も自然を満喫できるお料理が続きます。甘いグリーンピース。ホワイトアスパラガスには塩漬けにした木蓮の花びらを乗せて。
ガーデンサラダには蟻が。柑橘類が育たない北欧では蟻を柑橘類の代わりに使うこともあったそうで、口にするとピリッとした酸味がアクセントになります。
ノンアルコールドリンクも充実していて、お料理に合わせたペアリングというシステムで次々と提供されます。
海藻を使ったお茶にハーブでアクセントを加えたり、様々な花や果実を合わせたり、蟻の酸味を利用したレモネードもありました。
そしてスタッフさんが全員いきいきとしているのも新北欧料理の特徴かもしれません。
お料理やジュースの説明も、仕上げたシェフが料理を運んでくれて、心から楽しそうに説明してくれます。
メインは、季節の花をあしらったロブスターとアーティーチョークのグリル
ノーマでは、魚の次に肉料理、といったコースはありません。
夏はたくさんのフレッシュな野菜、秋はジビエというように旬の食材が、当日、驚きとともにテーブルに運ばれます。
デザートは野生のいちごタルトなど3種類、全18品のディナーでした。
旬の食材こそが美味しく薬になる。薬膳料理を学ぶ時に最初に教わる「天人合一 (てんじんごういつ) 」・「身土不二 (しんどふじ) 」とも通じる考えです。
夏の北欧は午後10時頃まで明るいため、メイン料理の後は小休止、庭を満喫します。
上:ノーマのキッチン棟、左下:独自の研究を続ける発酵調味料、右下:スタッフ食堂
夕食後はノーマのキッチンを案内していただきました。ダイニングの隣にある建物は元々軍の所有で、広さを活かして仕込み用キッチン、スタッフ食堂などに分けて使用しています。
自然を重視してきた日本の食文化にも影響を受けていて、味噌などの伝統的な発酵食品を独自に仕込んだり、最新の調理科学を研究するラボもあり、食への思いが随所に感じられます。
ロックダウンにより多くのレストランが休業せざるを得ない中でも、ノーマは歩みを止めませんでした。いま人々が求めるのはファインダイニングではない、と、ハンバーガーを売り出します。
デンマークの人達はハンバーガーが大好きで、街中にも大手チェーンから個人店まで数えきれないほどのお店があります。
もちろんノーマですから、地元の素材や組み合わせへのこだわりはありましたが、コロナ禍において家族や親しい少人数で気軽に食べられるハンバーガーは話題に。
その結果『グルメな外国人が訪れるレストラン』として敷居が高かったノーマの気概に触れた地元コペンハーゲンの人達の多くが、ロックダウン明け以降に予約をしてくれるようになったのだそうです。
今や多くのレストランが体現する新北欧料理の世界。北欧へいらしたらぜひ!
野菜とハーブの畑に囲まれたノーマ。切り株の間を抜けて扉をくぐる
【noma】
WEB:https://noma.dk/
住所:Refshalevej 96, 1432 Copenhagen K DENMARK