リゾートホテル然としたビーチクラブのすぐお隣に、そんな地元の人達が集まるのビーチも点在していて、こちらは入場料は5マナト(約300円)とお手頃です。
どのビーチも朝早くから開いていて、まだ涼しいうちの海を楽しもうと、8時を回ると家族連れがどんどんやってきます。
そう、こちらは家族の娯楽としての海。
ビーチベッドよりも、屋根のついたピクニックテーブルが人気で、そこにお母さんがきれいなテーブルクロスを持参して卓に敷きつめ、こちらももちろん持参の大きなタッパーウェアに詰めた西瓜だのメロンだのを並べ、道中買ってきた焼きたての窯焼きのチョレーキ(薄焼きパン)や白いチーズもそれに加わるのです。
トマトや胡瓜を備え付けの水道で洗って、その場でサラダにしたりも。
そういう食卓を眺めているのは、本当に楽しくて、この国の風俗や食文化を教えてくれます。
西瓜には、塩ではなくってきゅっとしょっぱい白いチーズを添えて食べることだとか、海辺でもやっぱり熱いお茶を飲むことだとか、そういう習慣を教えてもらったのは、そんな夏の海でした。
こういう庶民派ビーチには、たいてい食堂もついていて、炭火でじゅうじゅう焼いている羊のカバブなんかも注文できるので、それもまたお祭りの屋台のようで楽しめます。
目の前の海でその日に上がった魚を、調理して食べさせてくれる小さな魚食堂なども。
塩分が薄いカスピ海では、大きな鱗の淡水にいるような、日本では見慣れない魚が穫れるのですが、ざくざくと切込みを入れてかりっと揚げてあると、おいしくいただけます。
大きなクーラーボックス等に魚が入っているので、「これとこれをお願いね」という感じで好みの種類とサイズを選んで注文します。
揚げか炭火焼きかは、魚の種類によってアドバイスがもらえるので、それに従って。
ちょっとこってり油の乗ったボラみたいな魚、カトゥムは開いて炭火で焼きに。
さっぱりしたカマスみたいな魚、スダックは内蔵を抜いたら、まるごとかりっと揚げて。
アゼルバイジャンでは、このような魚料理には、塩をふって柘榴やプラムみたいな、酸味のある果実のソースをつけて食べるのですが、これはちょっと日本の梅だれにも似た風味で、日本人の味覚にも合います。
もちろん、檸檬も、甘い香りの、南部ランキャランの檸檬を添えて。
それに塩漬けのピクルスや、胡瓜やトマトの簡単なサラダと、竈焼きのパン、果物とお茶をつけて整えてもらう海辺の食卓はまた格別です。
イスラーム文化圏のアゼルバイジャンではあるけれど、服装の戒律についてはわりと緩やかなので、若い女の子たちは、日本や他の地域で見られるのと変わらない水着姿で、泳いだり日光浴をしたり、めいめい夏の海を楽しんでいます。
年配のマダムたちの中には、ちゃんとスカーフをして、ゆったりと全身を覆うドレスを着ている方もあるけれど。
パラソルや屋根の下の日陰に入れば、そよそよと風が吹いて、気温ほどには暑さを感じずに心地よく過ごせます。
ビーチバレーに興じる男の子たちのグループ、おしゃべりしながら熱心にサンオイルを塗り合っている女の子たち、その傍らには砂遊びのおちびたち、水の中でお父さんとはしゃぐ子どもたち、その一団をお母さんが「ごはんよう」と呼ぶ。
そんな明るく賑やかな夏の景色を、私はこよなく愛しています。なんだか遠い記憶の、白く光る夏休みのアルバムの写真みたいで。
Written by 岡田環(アゼルバイジャン)
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