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「日本人」目線で見るエクアドルのジェンダー平等【後編】

2023年1月5日
マットン美貴子 (エクアドル)

景観対策のためカラフルに塗られている家々だが、なかなか足を踏み入れることはない

ジェンダー平等の足を引っ張る男性優位主義、貧困、フェミサイド

順調に見えるエクアドルのジェンダー平等だが、スペイン語でマチスモ(Machismo)と呼ばれる男尊女卑の考えが問題に足かせになることもある。

そういう考えの持ち主は、マチスタ(Machista)と呼ばれ、そのマチスタ達の偏見が女性が能力を存分に発揮できなかったり、キャリアアップのチャンスに恵まれないなどの原因となることがある。

また、「男性は外で仕事。女性は家事をすればよい」とい古い考えをもつ家族の中で育つと、働くことに罪悪感を覚えたり、働くことさえ考えない人もいる。

このような状況は日本でもあり得る事ではないだろうか?表現は変わっても、女性が抱える問題には共通点があるような気がする。

エクアドルに来て2年余りだが、日本にいる時は気にならない「貧富の差」を日常生活で感じることがある。

私の住むエリアからそれほど遠くない場所に、いわゆる貧困層が住んでいるコンクリートの小さな家々がひしめくように建っている丘がある。

彼らとは買い物に行く場所も、友人とつるむ場所も同じになることはほとんどない。でも、なぜかそんな場所の近くに金銭的に余裕のある人たちが行くレストランやショッピング街があったりするから不思議だ。

ある知人は「交通手段のない貧困層が仕事に就けるように、そのような場所に繁華街を作っている」と話していた。日本ではあまり見かけない光景である。

 

貧困から抜け出せない原因とは?

エクアドルの友人に「貧困層の人も教育を受ければ、収入の良い仕事に就けば苦しい生活から抜け出せるのではないか?」と質問したところ、

「彼らにとって学校への交通手段を探すのも容易ではない。それに、公立の学校でもある程度のお金がかかるし、その日の暮らしで精いっぱいの人が将来のために高等教育を受けようとは思わないだろう」との答えだった。

エクアドルの都市部の平均収入は$450前後で、郊外だと$250くらいにまで下がる。

公立の学校なら月謝は無料だが、交通費やテキスト代、制服代は実費と聞くので、一人ならまだしも、複数子供がいる家庭にとっては大きな負担だろうと思う。

こういった収入と教育の格差も、貧困層の女性たちが「経済的な自立」を手に入れ、貧困から抜け出すチャンスを得られない原因ではないだろうか?

日本では義務教育を受け、社会に出て働きぶりが認められることで、豊かな生活を手に入れることは夢ではない。でも、ここではかなりハードルが高い気がする。

貧困は男女の関係なく苦しいものだが、その中で生活する女性の状況は、さらに経済的な自立から程遠いものにちがいない。教育を受けられる環境にいる女性と、そうでない女性との間でも大きな違いがありそうだ。

また、「女性」というだけでパートナーや家族から理不尽な暴力を受け死に至ってしまうフェミサイド(Femicide)も大きな社会問題で、今年1月から9月初旬だけで200名余りの女性が亡くなった。

死に至る可能性のある暴力を受けても逃げられない弱い立場に追い込まれてしまう理由は、「経済的に自立できない」「パートナーと別居・離婚は恥だとの思い込み」「子供のために我慢を続ける」ではないかと言われている。

 

チャンスを与える人が増えれば世界は変わる

私のスペイン語の先生は、若い頃に両親に「大学院に進学したい」と伝えたら、父親は賛成してくれたけど、母親に「勉強は十分。結婚しなさい」と反対されたそうだ。

先生の母方の家庭では「女は家庭を守る」という考えが当たり前だったが故のアドバイスだったのだが、先生を含め3人の女の子を授かった父親は、「子供にはいろんなチャンスに恵まれてほしい」と背中を押してくれたという。

また、先生の旦那さまは自動車販売会社の重役で、積極的に女性のインターンや従業員を採用している。

「子供を持った自らの経験から、職場の若い子たちにも家族のように接している」と先生は話していた。自分の周りに大切にしたい人が増えると、自然と周りの人にもチャンスを与えたいと思うものなのかもしれない。

また、外国で駐在経験のあるエクアドル人の友人は、帰国後、自国で金銭的な理由から売春にはしる女性たちがいることを嘆き、いつかはエクアドルの刺しゅうや民芸品をつくる工房を開いて女性たちを雇い、「お金を稼ぐ方法は他にもある」ということを教え、そういった女性たちを助けるメンターを育成したいと話していた。

そんな目標を持ちつつ、今、彼女は駆け出しの女性起業家の作った工芸品などを販売する手助けをしている。

このように、自分のできる形で手を差し伸べたり、メンターになる人が増えることで皆が気持ちよく働ける社会が実現するのだと思う。

 

エクアドルのジェンダーギャップ指数は41位

ここまで読んだ方の中には「エクアドルって大変」と思う方もいるかもしれないが、【前編】でも書いたように、2021年のジェンダーギャップ指数ではエクアドルは41位と、日本の116位を大きく引き離している。

私の見解だが、働く女性に家事や育児などの負担が過度にかからぬよう、お手伝いさんの活用やそれに対するパートナーの理解が日本より進んでいるのではないだろうか?

働く女性が思い切り仕事に集中でき、政治や経済活動に積極的に参加しやすいのだろう。

ただ、そのチャンスを享受できるのは教育を受け、安定した仕事に就けた女性に限られてしまい、貧困層や仕事に恵まれない女性とのギャップはますます広がりそうな気がする。

そのギャップをいかに埋めるかが、今後のエクアドルの発展につながるのではないかと思う。

Written by マットン美貴子(エクアドル)

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