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ガン転移宣告がくれた最高の贈り物。死を見つめた後に手に入れた人生の輝き【前編】

2024年2月8日
野林薫 (オーストラリア)

私の人生を180度変えた出来事

2017年は、私の人生を180度変えた年だった。

当時、ひどい背中の痛みに悩まされていたのだが、医者に行っても整体や針に通っても一向に回復せず、それどころか痛みがひどくなっていくばかり。

それまで経験したことのない痛みと、その痛みが原因による不眠に、私の生活のクオリティーは下降していくばかりだった。

レントゲンを撮っても何も異常が見つからなかったため、医者や整体師からは背筋や腰の筋肉を鍛えるように言われていた。

そんな状況がずいぶんと続いたある日、当時、デパ地下の野菜、果物売り場で働いていた私は、商品の陳列中に軽いギックリ腰になってしまった。

その事で労災認定を受けて産業医へと送られたのだが、この出来事が私の人生を180度変えることになるとは、この時は想像だにしてなかった。

 

突然の「癌転移宣告」で迫りくる死を見つめる

ギックリ腰で産業医と会った私はすぐに、同じクリニックで施術している整体師へとまわされた。

私の背中を施術しようとするとあまりに痛がる私に、その整体師は厳しい表情で、一刻も早くMRI検査をするように何度も私に告げた。

半信半疑でMRIを撮った翌日、朝イチに電話でクリニックに呼び出され産業医に会いに行くと、彼は深刻な面持ちで私を座らせた後、「検査の結果、背骨に癌があることがわかりました。そしてその癌はどこからか転移したもののようです」と私に告げた。

掲げてあるMRIの画像を見ると、7番目の背骨のあたりに雲のような白い影がまとわりついていた。

いきなりの癌宣告。しかも背骨に転移してるなんて、まるで「お気の毒ですが、あなたはもうダメです」って告げられている感覚だった。

が、それと同時に、「この私が癌?しかも転移してる?」と、強い違和感も感じていた。

言葉を失ったまま産業医の顔を見つめている私に、彼は悲しい表情を浮かべて、”I’m sorry. I’m so sorry.”と私の肩をさすり始めたのだ。

この瞬間、さっきまで感じていた違和感が吹き飛ばされ、死の宣告を突きつけられたような意識に陥った私は、堰を切ったように泣き出してしまった。

泣いている私をクリニックの所長が別室に連れて行き、お菓子や果物、飲み物を出してくれ、優しく話を聞いてくれた。

 

「自分の死」と過ごした濃密な時間

それから、連絡を受けて駆けつけてくれた友人に付き添われて家に帰った私。

その夜はぼーっとした意識で、「死がそこまで迫ってきている自分」をただ見つめた。

残された時間はどれだけなのか、その限られた時間の中で一体何をすればいいのか途方に暮れた。

ずいぶん長い間連絡を取っていなかった母の姿が頭に浮かんだ。母はなんて言うだろうか。

まるで濃い霧の中に一人きりで、なすすべもなく立ちすくんでいるような感覚だった。

こんなにも身近に「自分の死」というものを感じたことはなかった。まるで、「死の息遣い」が耳元で聞こえるような感覚だった。

この時私は「自分の死」という存在と、これ以上ないほどの濃密な時間を共有していたのだと思う。(【後編】に続く)

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Written by 野林薫(オーストラリア)

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