日本で生まれ育った私にとって、本は子供の頃から身近な存在でした。
物心ついた頃から幼稚園や自宅には当たり前に絵本があり、地域や学校の図書館は大きくきれいで、いろんなジャンルの本がありました。
学校の帰り道には書店に寄り道することもありました。インドネシアで暮らし始めてから、この「本が身近にある日常」がとてもありがたいことだったと気づきます。
長年「インドネシア人は本を読まない国民」と知られてきました。
それは日本語や英語媒体のメディアでもニュースになるほどで、今から十年以上前に勤務していた会社の日本人社長がそのニュースを見て驚き、当時子供がいる全従業員に無料で絵本をプレゼントしました。
まったく本がないというわけではないですが、書店数、書籍の数や質、購入しやすい値段かどうかなど、さまざまな面で日本や他先進国と比べて、子供も大人も本を手軽に買って読める環境ではありません。日本のように立派な公立図書館が各地にあるわけではありません。
首都圏でもそんな状態ですから、地方では読書をすることのハードルがもっと高かったと思います。(参考:Are Indonesians really not interested in reading? – Australia-Indonesia Youth Association)
上段:本のQuote(引用)、下段:本の紹介と電子版リンクのGoodreads というサイト
そんな劣悪な読書環境が、ここ数年で劇的に変わってきていることを肌で感じます。
我が家の子供たちが通う学校でも読書習慣をつけるためのスローガンが作られ、毎週決まった時間に生徒が読書をする時間が設けられるようになりました。
学校内の図書館は、以前は図書館とは名ばかりで、使われなくなった古い問題集や教科書が積まれていましたが、最近では子供向けの本がたくさん置かれるようになりました。
このような変化は政府の方針もありますが、SNSの普及も関係しているようです。(書籍の売り上げが上昇。SNSにより読書の関心が高まる – TNCアジアトレンドラボ)
国内外のインフルエンサーと言われる人たちの書籍が、SNSでシェアされたり、以前からいた読書家が立ち上げたコミュニティがオンラインで拡散されるようになると、人々の興味を集め始めたようです。
インスタグラムなどのSNS上には、本から一文(Quote)を抜粋し、紹介する人気アカウントをよく見かけるようになりました。
また、インターネットやスマートフォンの普及により、デジタルで書籍を読む若年層も増えている印象です。
インドネシアは日本に比べてまだまだ本の価格が高いですが、デジタル書籍であれば高級品である本にも手が届きやすいのかもしれません。
世界最大の本好き向けコミュニティーサイトGoodreadsは、インドネシアでもとても人気があります。
過去10年くらいで教育の質が上がったことで、本そのものへの関心が高まっていること、英語の書籍をそのまま読める人たちが洋書をインドネシア語訳を待たずに読めることも読書家の数を増やしているのではないかと思います。
インドネシア好きゆえ、インドネシアの歴史や文化についてはインドネシア語の本がもっとも良いリソースだと気づいてからは、私も国内で出版されている本を購入して読むようになりました。
最近は読書家による人気ポッドキャストから、おすすめの書籍について情報を得ることもあります。
このポッドキャストのパーソナリティたちによると、同じ東南アジアでも隣国のシンガポールやマレーシアに比べ、インドネシアの書店の数や質はまだ劣ると言います。
ですが、このようなポッドキャストが存在すること自体が、インドネシアの読書事情が変わってきている証だと思います。
最近インドネシア国鉄と大手書店がタッグを組み、駅に無料で借りられる本棚を設置する取り組みが始まりました。乗客が好きな本を選び車内で読書をし、降車駅で本を返すというシステムだそうです。
まだ始まったばかりの取り組みで、本を置いている駅の数も少ないですし、本を持ち帰ってしまう人がいるかもしれないというリスクもあります。
でも、このような取り組みがされ始めていることも、今後インドネシアの読書家を増やす大きな一歩となるのではないでしょうか。
日本では書店の数がかなり減っているという話を聞きますが、逆にインドネシアは国がすごい勢いで発展しています。
若者が多く、大きな人口を抱えていることなどから、今後読書に関する施設やコンテンツがオンライン・オフライン共に増えていくのではないかと思います。
私も大好きな読書が、この国の人たちにどんどん広がっていく変化を生で見ていると、なんだかワクワクします。
Written by 杏子スパルディ(インドネシア)