オレンジとグリーンのコントラストが美しい前菜
今年もノーベル賞受賞者発表の時期。
スウェーデンの発明家アルフレッド・ノーベルの遺産により設立されたこの賞は1901年以降、氏の命日である12月10日に『人類に最大の貢献をした人々』へ贈られてきました。
一私設財団のイベントでありながら授賞式にはスウェーデン国王の列席も賜り、警察による交通整理や警護など、国を代表する行事となったノーベル賞の、今回は食に注目してみます。
受賞者の功績に加えて話題に上る、華やかな授賞式と晩餐会。当日まで非公開の晩餐会メニューは、毎回、選ばれたシェフにより緻密に組み立てられます。(平和賞については授賞式、晩餐会ともにノルウェーの首都オスロで開催)
そしてストックホルムには、この晩餐会と同じメニューをいただける場所があるのです。
店名のとおり、入口から地下に降りた先にあるレストラン
その場所は、晩餐会の会場と同じストックホルム市庁舎内。ただし晩餐会が開かれる『青の間』ではなく、『市庁舎の地下室』という名前のレストラン「スタッドヒュース・シェラレン(STADSHUSKÄLLAREN)」。
店名の通り地下に位置し、市庁舎が建てられた1922年から営業している店は雰囲気も料理も常に高い評価を得ています。
ノーベル賞晩餐会メニューは2名以上の事前予約から可能。現在サーブされているのは2019年のもの。2020年と2021年は新型コロナ感染症の蔓延により晩餐会も中止となったため、現時点でいただける最新メニューです。
なおこのレストランでは、ノーベル賞が始まった1901年からの歴代全てのメニューも体験することが可能です。こちらは10名以上での予約となりますが、100年以上のメニューを選べるとは驚きですね。
2019年のテーブルセッティングとメニュー
重厚な扉をくぐって地下への階段を降り、ワインセラーのような店内へと進みます。
ここでのディナーの特徴は、メニューやサーブ形式だけでなく食器やグラス、カトラリーに至るまで、当日と同じスタイルが再現されること。
私たちについてくれたスタッフさんは過去に2度晩餐会でサーブした経験があり、今年3年ぶりに開催される晩餐会を楽しみにしていました。
テーブルに並べられた食器類はどれもスウェーデンが誇る老舗メーカーのもので、デザートワイン用グラスのグリーンが緊張感をほぐす明るさを添えています。
お皿は北欧最古の陶磁器メーカーであるロールストランド(Rörstrand)、グラスはオレフォス(Orrefors)、カトラリーはゲンセ(Gense)。それぞれNOBELシリーズとして各社から販売、一般人も購入が可能です。
料理自体は前菜・メイン・デザートの3品。メニュー表に記載されたペアリングのワインも全て、晩餐会と同じものです。
メインは鴨のファルシー
まずは前菜で。センターには鮮やかなオレンジ色が目を引くカリックス・キャビア。これはスウェーデン北部で獲れるサケ科の魚から採れる卵です。
EUの原産地呼称PDOが認められているもので、魚卵特有の生臭さがなく爽やかささえ感じるその味は、魚卵がポピュラーなスウェーデンでも別格扱い。ディルとホースラディッシュのソースも良く合います。
メインコースは鴨を使ったファルシーと呼ばれる一品。黒ラッパ茸やレモンタイムなどを組み合わせた、日本でいう飛龍頭のような料理に仕上げられています。
可愛らしい形のポテト、スパイスを効かせた黄色いビーツのピクルス、燻製シイタケとキャベツも添えて。ファルシーにソースがよく絡み、燻製シイタケの風味も加わって滋味深く、食べ応えがありながらも胃にもたれないメインでした。
ラズベリーとチョコレートのデザート
最後の一品は、ベリー類の豊富さでも有名な北欧ならでは。ラズベリーをクリーム仕立て、ムース、ソルベの3種類でチョコレートとともにラズベリー天国。肉料理の後の口を濃厚な甘酸っぱさで満たしてくれます。トカイワインとも好相性。
全体で3品とシンプルでありながらスウェーデン産の食材をふんだんに使い、世界中からのゲストが楽しめるように考えられたメニュー。
けれどもメニューが前面に出るのではなく晩餐会を楽しんでもらうための引き算もされた構成のように感じました。
アラカルトも美味しいお店ですが、ノーベルディナーを体験できるのはここだけとあって世界中からゲストが訪れるもののノーベルメニューをオーダーするのは意外にも?日本人ゲストが多いのだとか。
週末ということもあり、市庁舎で結婚式を挙げたばかりのカップルと親族友人も多く見られたひととき。思い入れのある年のノーベルディナーを記念にいただくのもスウェーデンでの思い出になるのではないでしょうか。
【レストラン、スタッドヒュース・シェラレン(STADSHUSKÄLLAREN)】
https://www.stadshuskallarensthlm.se/en/
1901年からのメニューはインターネットでも見られます(ノーベル財団の公式ホームページ)
https://www.nobelprize.org/ceremonies/menus-at-the-nobel-banquet/
メーラレン湖に面するストックホルム市庁舎
Written by 高見節佳(デンマーク)